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札幌家庭裁判所岩見沢支部 昭和44年(少ハ)6号 決定 1969年9月02日

本人 T・K(昭二四・五・一八生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

本件申請の趣旨は、「T・Kを昭和四四年九月三日から同月三〇日までの期間北海少年院に継続して収容する。」との決定を求めるというものであり、その理由の要旨は次のとおりである。すなわち、T・K(以下本人と略称する。)は昭和四三年九月三日当庁において中等少年院に送致する旨の決定を受け、同月六日から北海少年院に収容されているものであるが、同年一〇月三日職業訓練課程(北海少年院は職業訓練法に基づく職業訓練施設の指定を受けている。)の木工科に編入され、その成績および処遇経過は良好で、昭和四四年七月一日には最高段階の一級上に達している。このままの成績で推移するときは、同年九月二日で少年院法一一条一項にかかる満期退院をさせることができる段階にあるが、上記の職業訓練基準時間は最低一ヵ年をもつて一、八〇〇時間の八〇パーセント以上の訓練を必要とし、これに満たない場合は同法による技能検定の受験のため必要資格を取得できない(本訓練課程修了後四ヵ年の実務経験により、二級技能土の技能検定受験資格をもつ。)。本人の退院後のことを考えると是非この機会に本基準の最低訓練時間の訓練を終了させ、受験資格を持たせることが相当であるというべく、なお矯正教育を施す必要があるから、少年院法一一条二項の規定により本件申請に及んだ。

よつて検討するに、本人およびその保護にあたつているT・J(実兄)の当審判廷における各供述、当庁調査官堀越良治作成の調査報告書三通(昭和四四年八月二五日付および同年九月二日付のもの)、当庁裁判官永山忠彦作成の決定書、ならびに、札幌少年鑑別所の鑑別結果通知書(昭和四三年八月三一日付)によれば次の事実が認められる。

(一)  本人は、昭和四三年八月二日に犯した強盗致傷、銃砲刀剣類所持等取締法違反の非行により当庁の調査、審判を受け、同年九月三日中等少年院に送致する旨の決定があり、同月六日北海少年院に収容されたものであるが、非行自体は極めて危険性が高く、地域社会に対しても強い不安を与えた事案であつて、上記決定時において指摘されていた本人の性格上の欠陥は、内閉的孤独的傾向があること、対人的場面で消極的、逃避的で円滑性を欠くこと、強い羞恥感情、自己不全感があること、協調性に乏しく他人の意見をきく態度がないこと等であつて上記非行もこれらの欠陥から日常生活における問題発生に対し必要以上に追いつめられた形で受けとめ独善的、爆発的、攻撃的に発散解決を図つたものと認めうる。他方非行性の進度は現実に敢行した上記非行の兇悪的印象に比しそれ程深化したものでなく、初発非行であり自己統制力の欠除も軽度であること、知能的には普通域にあつて負因がないことが、同時に確認されていた。

(二)  本人の北海少年院内での生活態度をみるに、入院当初より一貫して指導教官の指示に対し従順であり、反則行為はなく、実科成績も優秀で、院内で努力賞、実科賞、生活賞を各一回ずつ受けた外、本年七月二日から室長兼自治委員として他の在院者に対しても指導性を発揮した。

(三)  本人は両親がなく恵まれない生育環境にあつたが、実兄との意思の疎通にさしたる障害はなく、上記非行当時一時的に途絶えていた連絡等は、実兄(T・J)が結婚したてで自己の生活基盤の確立期にあたつていたという実兄側の事情によるものであつて、その後本人の入院を機に実兄も深く反省し、しばしば本人に面会して激励し、本年八月中旬には本人の退院後の就職先を見つけ、今後の本人の監護指導についても鋭意努力する旨誓つている。

(四)  本件申請の理由中、北海少年院が職業訓練法に基づく職業訓練施設の指定を受けていること、本人が本件申請の趣旨記載の期間同院に収容を継続される場合には申請理由どおり技能士検定の受験資格の一部を取得する可能性が充分あることは認められる。

以上諸事実を総合すると、現時点において入院当時の要保護性はほとんど改善され、従つて本人の必身に著るしい故障があるとは認められず、又犯罪的傾向が全く矯正し尽されたとは断定できるかどうか疑問であるとしても極めて微弱な程度しか残存していないとみるのが自然であつて、保護態勢上の問題が一応解消されていること、収容を継続して受験資格の一部を取得させることが本人の更生に必要とまでは認めがたく、有益であるという程度にとどまつていること、本人が出院を希望しており木工技能士の受験の積極的意思がないこと(当審判廷における本人の供述による)等を合わせ考慮するとこの際本人を退院させる方が適当であるというべく、少年院法一一条二項に該当しない場合であるから本件申請を認容することはできない。よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 田中宏)

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